2024.06.06
今回は腎臓についてお話していただきました。
健康診断の結果を見ながら数値など再確認してみましょう。
本日の講話のテーマは「腎臓」です。
腎臓は、腰のあたりに左右1個ずつ計2個あります。それぞれ握り拳程度の大きさで、重さも約150gと、比較的小さい内臓です。
これまでに朝礼講話で、「肝臓」についてお話ししたことが何回かあるのですが、日本語に「肝腎」という言葉があるように、
「腎臓」も「肝臓」と同じくらい、生きていく上で欠かせない臓器です。
どのような働きをしているかを一言で言うと「デトックス」つまり「浄化」です。
肝臓が代謝の要であるなら、腎臓は浄化の要であり、血液の中の老廃物や毒素など不要なものを濾過し、尿として体の外に排泄します。
この浄化排泄の働き以外にも、腎臓は血圧をコントロールするホルモンや、
赤血球を作る働きを助けるホルモンを分泌することで、血圧を保ち貧血を防ぎます。
さらにカルシウム代謝に欠かせないビタミンDの活性化作用もあり、骨を丈夫に保つ働きもあります。
このように重要な働きをする腎臓ですが、この働きが悪くなっていく病気を総称して「慢性腎臓病」、
または英語の頭文字をとって「CKD( chronic kidney disease)」と言います。
現在、日本に1330万人いると言われており、実に国民8人に1人の割合です。
患者数が多い割に世間一般であまり知られていないため、近年、啓発活動が行われています。
時々、テレビで「CKDを知っていますか?」CMが流れたりもしているのですが、ご覧になったことにある方はいらっしゃいますか?
CKDは総称と申し上げましたが、その中には、腎臓そのものの病気である腎炎(例えば慢性糸球体腎炎やIgA腎症など)以外に、
糖尿病や高血圧などの生活習慣病が原因でなる腎臓病も含まれます。もしろ、後者の生活習慣病の方が、割合として多いです。
肝臓病が進んでしまった状態として「肝硬変」のお話をしたことがありますが、慢性腎臓病(CKD)が進んでしまった最終形態は「腎不全」です。
腎不全になると自力で尿を作ることができず、老廃物や毒素が体に溜まってしまうため定期的にそれを体から出さなくては生きていけません。
それが人工透析です。
人工透析患者は年々増加していましたが、ここ2、3年は34万人程度となっています。
あらたに透析を開始する人数は年間およそ4万人で、その高齢化も進んでいます。透析患者の総数と年齢の推移のグラフは下記の通りです。
なお、透析に至る原因疾患の割合としては、糖尿病が一番多く1/3以上、次にいわゆる腎臓病が1/3弱、次いで高血圧となっています。
このように透析患者数≒末期腎不全患者数のご紹介と、CKDの中にどういう病気があるのかご説明しましたが、CKDの管理としては
基本的に、初期の段階で早期発見し、腎不全まで進行させないように早期治療することが重要です。
ではまず、早期発見のためには何をすればいいのでしょうか?
腎臓病(腎臓そのものが原因の腎臓病と、糖尿病や高血圧が原因の二次性腎臓病と両方とも)は、初期の段階では自覚症状がありません。
そのため、健康診断が重要になります。項目としては、尿検査と血液検査です。
尿検査では、尿蛋白と尿潜血(目に見えない血液成分の有無)を検査します。
血液中の蛋白質は、本来腎臓で濾過される際に血液に残り、尿に出てくることはありませんが、腎臓の機能が障害が出てくると
濾過機能に綻びが出てきて、尿中に検出されます。
早い段階で気付いて対処すべきですが、微量の尿蛋白は睡眠不足や疲労で出てくる場合もあります。
膀胱炎で炎症がひどい場合にも検出されます。
定期健診で尿蛋白を指摘された場合は、病院を受診して再検査や精密検査を受けて、腎臓病がないかどうか確かめてください。
尿潜血は、腎臓から膀胱までの尿の経路のどこかに炎症や傷があると陽性になるため、
原因が腎臓病の場合と、尿路の途中の尿管結石や膀胱炎などによる場合があります。
健診で尿潜血が指摘された場合は、尿蛋白の場合と同様に病院を受診して再検査や精密検査を受けて腎臓病がないかどうか確かめてください。
なお、糖尿病関連では尿糖もチェックします。
血液検査は、BUN(血中尿素窒素)と血清クレアチニンという項目があります。
いずれも本来濾過されて尿に排出される老廃物や代謝産物なので、腎臓の機能が落ちるとうまく排出されずに血中に残り、数値が高くなります。
こちらも、腎臓が悪くなっている場合以外に、脱水などで数値が上がる場合もあり、定期健診で指摘を受けた場合は
病院を受診して再検査や精密検査を受けて、腎臓病がないかどうか確かめて、CKDと診断された場合は適切な専門治療を受けて下さい。
なお、血液検査項目に、クレアチニン値を用いて年齢と性別で計算したeGFR(推算糸球体濾過値)が載っている場合もあります。
この場合は数値が低いとダイレクトに腎機能の低下を示している場合が多いので、やはり病院を受診してください。
なお、受診する病院ですが、腎臓の専門は腎臓内科か泌尿器科ですが、尿検査や血液腎機能検査の異常で二次検査を受診する場合は
上記専門科を直接受診する以外に、とりあえず内科を受診しても大丈夫です。
本格的に専門科の治療が必要な場合は、内科から各科に紹介されます。
ではもしCKDと診断された場合、どのような治療が必要となるのでしょうか。
透析患者の原疾患の円グラフから推測されるように、CKDのかなりの割合は生活習慣病であり、生活習慣改善が基本となります。
また、腎臓を守るためには、血圧を上げないことが重要です。このため、薬物療法は、降圧剤から始まる場合が多いです。
以下、治療法につきご説明します。
まず、ごく初期の場合は生活改善です。しっかり睡眠をとり、暴飲暴食をせず、適度な運動をしましょう。
疲労やストレスをためないようにしてください。
またしっかり水分をとって、トイレに行って排尿することも大事です。筋肉を保つために運動が認知症にならないために脳トレが必要なように
健全な腎機能を保つためには、しっかり腎臓に働いてもらう(血液を濾過して尿を作る)ことが必要です。
初期の場合は、生活改善をした上で、特に食事療法がより重要になってきます。
腎臓病の食事療法は、必要な栄養は摂りつつも、腎臓に負担をかけないように注意する必要があります。
また、病状の進行具合によって、制限が増えていきます。
まず初期は、高血圧にならないように、減塩を心がけます。上述しましたが、水分をしっかり摂ることも重要です。
食事療法について、初期より以降については下記に記載しますが、必ず主治医の管理下で行なってください。
CKDが進行すると、腎臓に負担をかけないように、蛋白質も制限します。
蛋白質は筋肉や骨の原料となり、また体内の代謝に欠かせない酵素の原料ともなるため、とても大切な栄養素ですが、
最終的に老廃物として腎臓で濾過されるので機能の衰えた腎臓には負担になります。そのため、制限が必要になるのです。
蛋白質を制限すると、総カロリーが足りなくなる場合があります。
エネルギー不足になると、体が筋肉を分解して蛋白質を使うようになるため、腎臓に負担がかかってしまいます。
そうならないよう、炭水化物や油脂はしっかり摂って、総カロリーをキープしましょう。
さらに病状が進行すると、カリウムやリンといったミネラル類も濾過できずに体に溜まってきて、心臓や骨などに悪影響があるため
それらの制限も必要となってきます。具体的にはカリウムは野菜や果物、リンは加工食品に多いので、それらを制限しなくてはいけません。
次第に食事制限が厳しくなっていき、調理法も煩雑となるため、CKD患者さん用の栄養補助食品や飲料、
特別治療食なども市販されているため、それらを利用することもできます。
食事療法に加えて、初期から薬物療法が必要なこともあります。
まずは前述したように、腎臓を守りためには、血圧を上げないことが重要なので、高血圧の方は、降圧剤を内服します。
降圧剤として利尿薬を使う場合もあります。
原疾患に糖尿病がある方は、糖尿病の治療薬が必要です。
糖尿病の治療薬の1つであるSGLT2阻害薬は、腎臓そのものを保護する効果もあり、糖尿病を伴わないCKDにも適応となっています。
脂質異常症や高尿酸血症も、動脈硬化を進行させ腎機能悪化の原因となるため、それぞれの内服治療薬を用います。
CKDが進行した場合は、低下した毒素排泄作用を少しでも補うために、経口活性炭製剤を使って腸管内毒素を吸着させることもあります。
上記ほか、各薬剤について、図にしたものを参考までに下記に示します。
CKDの治療は、上記の生活改善、食事療法、薬物療法を、病期に応じて組み合わせ
できるだけ病状を進行させない、腎不全にさせないことが目標となります。
腎不全になってしまった場合には、透析療法があります。
透析には、腹膜透析と血液透析がありますが、ここでは詳細は省きます。
近年は、透析と仕事を両立させるために、夜間透析や、最近では在宅血液透析なども導入されてきました。
また、最終的には、ドナーとレシピエントいずれも条件は整った場合に限りますが、腎臓移植という手段もあります。
ですから、腎不全となっても悲観することはないのですが、やはり透析も移植手術も負担は甚大なため、
できるだけ腎不全に至らないよう、CKDの早期発見、早期治療に務める必要があります。
以上、腎臓の重要性と、CKDという、日本人には意外と多い、でも皆さんにあまり馴染みのない病気についてご説明しましたが
少しでも関心を持っていただけたでしょうか?
年に1回もしくは2回の定期健康診断は、初期には自覚症状が出ずに、自分では気付きずらい、
今回のテーマのCKDをはじめとした各種疾患を早期発見して、早期治療に持っていくための、貴重で重要な機会です。
一次健診で引っかかっても、即病気とは限らないのですが、病気が隠れている可能性があります。
定期健診で要再検査または要精密検査、または要受診という判定項目があった場合は、必ず病院受診という次のステップに進んでください。
健康に仕事しつつ長生きするために、日常の生活習慣に気をつけることと、会社の定期健康診断をぜひご活用ください。
そして、健診は受けっぱなしではなく、指摘事項の通りに受診したり検査に行ってください。産業医面談で詳しい説明を行うことも可能です。
以上で朝礼講話を終わります。長時間ご清聴ありがとうございました。