2023.05.15

千葉営業所 産業医の先生のお話 ~食中毒~

今回は食中毒についてお話しいただきました。過去に食中毒を経験した事があるという方もいるのではないでしょうか。

食品の取り扱いや手洗いの仕方など、とても参考になるのでぜひご一読ください。

 

段々と暖かくなってきており、過ごしやすい日もありますけれども、今後は夏を感じるような暑い日も増えてくると思います。当然夏には、皆さん熱中症に気を付けられると思いますが、季節の変わり目の急に暑い日などに熱中症での救急搬送件数は増える傾向にあります。季節に関わらず、熱中症は起こりますので、水分補給・適度な休憩を意識するようにして下さい。夏の前には、ジメジメとした梅雨が訪れます。湿度や気温が高くなる梅雨の時期は、細菌の増殖にもってこいの環境です。実際に、食中毒が1番多く発生するのが6月頃と言われています。ですので、今回は注意喚起を含めて、食中毒とその予防方法について、お話ししたいと思います。

まず、「食中毒」とは何かですが、国語辞典にはこのようにあります。
「飲食物と一緒に病原体や毒物が体内に入ることによって起こる中毒の総称。嘔吐・腹痛・下痢などの症状が起こる。ブドウ球菌・サルモネラ・病原性大腸菌などによる細菌性のもの、ウイルスや寄生虫によるもの、きのこ・ふぐなどの自然毒によるもの、鉛・水銀などの化学物質によるもの、に分けられる。最も多いのは細菌性のものである。」
皆さんも経験があると思います。急にお腹が痛くなり、トイレに駆け込むと水みたいな下痢が出たり、嘔吐をしたり。嘔吐や下痢という症状は、体内に病原体や毒物を取り込まず、外に出そうとする体の反応です。嘔吐や下痢をすることで、症状が改善すればいいですが、症状がなかなか改善せず、長引くこともあります。そういったもの1つ1つの原因を調べることは出来ませんが、もしかすると細菌やウイルスが症状を引き起こしており、食中毒である可能性があります。症状が軽いものであれば、病院やクリニックを受診することはないと思いますし、受診しても必ず原因を調べる訳ではないので、全ての食中毒症状の発生数を把握することは難しいです。一方で、症状が強い場合には病院を受診して、原因検査を行います。それらについては、厚生労働省が統計を取っています。年間の食中毒患者数は、令和3年では約1万人で、その中で最も多いものは40%以上を占めるノロウイルスで、第2位は20%を占める病原性大腸菌です。
ノロウイルスは、牡蠣などの貝を加熱処理しないまま食べることで感染することが多く、症状は腹痛、頻回の下痢・嘔吐、発熱です。食べた人だけが感染する訳ではなく、下痢や嘔吐物の処理や不適切な手洗いなどで次々に感染が拡大することもあります。例えば、家族の中で1人が感染した場合に、タオルなどを介して、家族全員が感染するといったことも比較的よくみられます。予防方法としては、ノロウイルスは熱に弱いので、加熱処理を十分にすること(90℃、90秒以上)、また嘔吐物などを処理するときは手袋を使うこと、消毒を徹底すること、などが挙げられます。
次に、病原性大腸菌は、いくつか種類がありますが、O-157というものが有名で、聞いたことがあるかもしれません。加熱処理がされていない食肉製品を食べることで感染しますが、それだけでなく、食肉に触れた手や調理器具から菌が移り感染することが知られています。症状は、腹痛・嘔吐・下痢ですが、血便が出る場合には重症化する可能性があるため要注意です。予防方法としては、生肉を調理した手や調理器具で他の食材に触れないこと、加熱処理を十分にすること(75℃、1分以上・・覚え方は、O-157を反対から読むと751、75℃1分)です。
他にも食中毒の原因となるものはたくさんありますので、注意点をまとめておきます。多くの場合は、嘔吐や下痢、腹痛といった症状がみられますが、原因物質が体内に入ってすぐに症状が起こるものばかりではありません。症状が起こるまでの期間を潜伏期間と言いますが、その潜伏期間は数時間から長いと5日程度とかなり幅があります。症状があると、直前に口にしたものが原因と思いがちですが、数日前に食べた刺身や火が通り切っていない唐揚げが原因といったこともあります。また、下痢や嘔吐の症状が比較的軽く、水分摂取が出来れば、自然に改善していくと思いますが、一方で病院に受診すべき症状というものもあります。水分摂取が出来ない、39℃を超える発熱が続く、血便が続く、強い腹痛が続く、という場合には、医療機関への受診をお勧めします。

次に食中毒にならないために、何より大切なこと、「食中毒の予防」について説明したいと思います。食中毒予防の三原則は、「つけない」・「増やさない」・「やっつける」です。
「つけない」で大切なことは、手はさまざまな雑菌が付着していて、汚いということを認識することです。調理を始める前は当然ですが、生肉や魚を取り扱った後などさまざまな場面で手洗いをしっかり行うことが重要です。また、ペットボトルに口をつけて飲んだり、パンなどの食品をかじったりして、それを部屋や車内に放置したりしない。口は雑菌だらけですので、口をつけて飲んだり、かじったりすると、ペットボトル内や食品に雑菌が移り、菌が増殖します。特にこれからの梅雨の季節などは、一晩室内に放置するだけで驚くほどに菌が増殖してしまいます。コップの使用や口を直接つけないことが効果的です。
「増やさない」で大切なことは、今も説明しましたが、部屋に放置することを極力避けることです。多くの菌は、10℃〜60℃くらいで増殖します。そして、35℃前後が最もその増殖スピードが大きくなり、ジメジメし湿度が高い環境ではさらに加速します。これからの季節、閉め切った室内や車内では、温度・湿度ともに菌にとって増殖するのに最適な環境になります。食品を放置せずに、冷蔵庫や冷凍庫に保存するようにしましょう。ただ、冷蔵庫は安心と思われるかもしれませんが、開け閉めが多かったり、ものを入れ過ぎたりすると、しっかり温度が下がらずに、冷蔵庫内に入れておいてもじわじわ菌が増殖することもありますので、過信しすぎないようにしましょう。
「やっつける」で大切なことは、食材の加熱処理や、調理器具や手指の洗浄消毒を徹底することです。ほとんどの菌やウイルスは、加熱に弱いです。しっかりと加熱処理をすることで、死滅します。先ほども言いましたが、ノロウイルスでは90℃、90秒、病原性大腸菌では75℃、1分です。食材に限らず、調理器具も熱湯での処理が有効ですし、殺菌剤や除菌シートや除菌スプレーなどの利用も効果的です。手指衛生に関しては、コロナウイルスの流行によって、意識がかなり変わったと思います。手や指についた菌やウイルスは、流水で15秒すすぐと100分1に、石鹸やハンドソープで10秒もみ洗いし流水で15秒すすぐと1万分の1に、減らすことが出来ます。ただ、正しくもみ洗いを行わず洗い残しがあるとその効果は半減してしまいます。
それでは最後に、今一度、正しい手洗いを全員でやってみましょう。
目の前に水道から水が流れていると思って、洗ってみましょう。
(資料の、できていますか?衛生的な手洗いがあればそれを見ながら)
1、流水で手を洗います。2、ハンドソープを手に取りましょう。3、手のひらと指を洗います。4、手の甲と指を洗います。5、指の側面、指の付け根を洗います。6、親指と親指の付け根を洗います。7、片手を丸めて、そこで他方の指先を洗います。反対も行います。8、手首を洗います。9、流水でしっかりと泡を洗い流します。10、手を拭きます。11、アルコール消毒があればそれを吹きかけ、手をもみ、すりこみます。
最後に、タオルの場合は、濡れたまま放置しておくと雑菌が繁殖して、折角洗った手にタオルから菌がついてしまいますので、定期的に変えることが重要です。

産業医
池田 迅