2022.01.18

千葉営業所 産業医の先生のお話 ~アルコールとの上手な付き合い方~

今回はアルコールとの上手な付き合い方という内容でお話していただきました。

ほどよいお酒は、カラダとココロに潤いを与えるといわれます。

お酒が持つ「リラックス効果」や、良い「コミュニケーションツール」として

うまく付き合いたいですね!

「アルコールとの上手な付き合い方」

本日は、「アルコールとの上手な付き合い方」というテーマでお話ししたいと思
います。
アルコール、つまりお酒ですが、日本では厚生労働省が「適切な飲酒量」という
ものを示しています。その量は、純アルコールで 1 日あたり約 20g です。純ア
ルコールというのは聞き慣れない言葉だと思いますが、飲酒量(mL)とお酒の
種類ごとのアルコール度数、%から、計算することが出来ます。計算式は省きま
すが、適切な飲酒量とされている純アルコール 20g というのを具体的なお酒の
量で示すと、ビールや発泡酒はアルコール度数 5%で 500mL 1 缶、ハイボール
缶はアルコール度数 7%で 350mL1 缶、ワインはアルコール度数 12%で 200mL
≒グラス 2 杯、日本酒はアルコール度数 15%で 180mL =1 合、焼酎はアルコー
ル度数 25%で 100mL、ウイスキーやブランデーはアルコール度数 40%で 60mL
になります。アルコール度数が高くなると、当然ながら少量でも、20g に到達し
ます。
では、アルコールはなぜ適切な飲酒量が決まっているのでしょうか。それは、ア
ルコールを摂取すると、短期間から長期間でさまざまな体への悪影響が出てく
るためです。お酒を飲むと、胃で 20%、小腸で 80%が吸収され、血液中に入り、
血液中のアルコール濃度が上昇し、その後肝臓で処理されます。お酒を飲み始め
ると、血中のアルコール濃度が上昇し始め、最初は気分爽快となりますが、徐々
にほろ酔い状態に移行します。その後、酩酊状態を経て泥酔から最悪の場合昏睡
状態となり意識を失ってしまい、最悪の場合呼吸が止まってしまいます。最初は
楽しい気持ちで飲んでいますが、徐々に気分が良くなりすぎて、気が大きくなっ
たり、怒りっぽくなったり、その後、まともに立てない、話の辻褄が合わないと
いった状況になります。なぜそうなるかというと、アルコールによって、脳の機
能が低下してしまうからです。体は無意識に生きる上で大切な機能は守ってく
れていて、重要度の低い機能から低下していきますが、最後の最後には呼吸中枢
と言われる延髄の機能まで低下し、呼吸停止し死亡してしまうこともあります。
死亡に至らなくとも、短期的にこのように普段とは異なった状態になることを
総称して急性アルコール中毒とも呼びます。
中長期的にお酒を飲み続けるとどうなるでしょうか。純アルコールを男性では
40g 以上、女性では 20g 以上を毎日飲み続けると、生活習慣病を高めるリスク
になると言われています。具体的には、脂肪肝や肝臓病(肝硬変や肝臓癌)、膵
炎、肥満・メタボリックシンドローム、アルコール依存症など多種多様な健康被
害の原因となります。しかし一方で、適量を守った場合は、血圧が下がる、血糖
値が下がる、体重が減るといった効果や、心筋梗塞が減ったという研究もあるた
め、お酒は絶対に飲むべきではないということではありません。あくまでも、「適
量を守る」ということがとても大切になります。
男性と女性ではアルコールが分解される肝臓の大きさが異なるため、一般的に
は男性の方が女性よりもアルコールの許容範囲が広く設定されています。しか
し、アルコールを分解する機能は人それぞれ大きく異なるため、あくまでも一般
論です。皆さんの周りにも、お酒に強い人、弱い人、全く飲めない人と色々な方
がいると思います。その違いは、それぞれが生まれつき持つアルコール分解酵素
による違いです。お酒を飲むと、アルコールは肝臓で分解され、アセトアルデヒ
ドという物質となります。このアセトアルデヒドを分解する酵素の働きが弱い
と、アセトアルデヒドが体内に溜まり、頭痛や吐き気を引き起こし、翌日に持ち
越すと二日酔いの原因となります。そして、日本人は他の国の人たちとは異な
り、この分解酵素の働きが弱い人の割合が多い人種です。つまり、お酒が全く飲
めなかったり、お酒に弱い人が多いということです。生まれつきの体質なので、
仕方のないことですし、分解酵素が全くない人もいますので、そういった人にお
酒を飲むことを強要することは絶対にしてはいけません。一方で、分解酵素の働
きがよく、悪酔いや二日酔い知らずという人もいるかと思いますが、だからとい
って、お酒をたくさん飲んでもアルコールによる病気にはならないかというと
そういう訳ではありません。お酒に強い人ほど、たくさん飲んでしまう傾向にあ
るので、中長期的な生活習慣病の発症には要注意です。
時々ニュースで流れている飲酒運転の事件事故で、それを起こした人から「お酒
を飲んでから時間が経っているから大丈夫だと思った」、「仮眠を取ったからお
酒は抜けたと思った」などのコメントを聞くことがあると思います。皆さんの中
にも、明け方までお酒を飲んで、少し休んで出勤して仕事をした経験がある方も
いるかと思います。その時の体の調子はどうだったでしょうか、頭がぼーっとし
た感じであったり、体が重い感じが残っていたり、といったことはなかったでし
ょうか。実際に、お酒を飲んでからアルコールが体から抜け切るまでどのくらい
の時間が必要でしょうか。もちろん、個人個人のアルコール分解酵素の働きによ
って時間は異なると思いますが、平均的には、適量といわれる 20g のアルコー
ルの分解にかかる時間は 4〜5 時間です。予想以上に時間がかかると思われたの
ではないでしょうか。アルコールの量が増えれば、分解にかかる時間はさらに長
くなります。最近はコロナの影響で、遅くまで外で飲み歩いて、ということはな
くなったかと思いますが、宅飲みした場合でも少し遅くまで適量以上に飲んで
しまうと、自覚はあまりなくとも、翌日の仕事までアルコールが残った状態を持
ち越してしまうということにもなりかねません。特に、車を運転したり、大きな
機械を扱ったり、危険な作業に従事する場合などは、他人を巻き込むような事故
に繋がる可能性がありますので要注意です。ついつい楽しくて飲み過ぎてしま
った、あと一杯のつもりが何杯にもなってしまった、といった経験があるかと思
いますが、もし事故を起こしてしまった場合には、「ついつい」や「うっかり」
では許されません。お酒を飲み、血中アルコール濃度が上がると、脳の機能が低
下して、正常な判断が下せなくなり、どうしても大きな気持ちになったり、自分
でコントロールが効かなくなってしまったりする可能性があります。そうなら
ずに、この先も楽しくお酒を飲む習慣を続けたいと思うのであれば、そうなる前
にやめる意志やお酒と共に同量以上の水やお茶などを飲むなどで、自己管理を
しっかり行うことが大切です。
アルコールには、コミュニケーションを円滑にしたり、適量であれば健康増進し
たりといい面があります。悪い面を引き出してしまわないように、アルコールと
上手に付き合っていって頂きたいと思います。
産業医
池田 迅