2022.05.10

千葉営業所 産業医の先生のお話 ~ポリファーマシー 薬との付き合い方~

 

今回はポリファーマシー(polypharmacy)についてお話していただきました。

ポリファーマシー・・・聞きなれない言葉ですが処方されたり服用する薬が多いことなどで

逆にカラダに害を及ぼす事象を指すそうです。

治っているのに服用し続けてしまっていることはないですか?

たくさん薬があると安心する…なんてことはいですか?

薬を飲んで逆に体調が悪くなってしまうなんてことがないよう今回の講和をぜひ参考にしてください!

 

 

「ポリファーマシー」薬との付き合い方

 

本日は、「ポリファーマシー」というテーマでお話しをしたいと思います。ポリファーマシーと聞いて、すぐに何のことか分かる方は少ないと思いますので、まずは言葉の意味から説明を始めたいと思います。ポリファーマシーとは、「たくさんの」や「複数の」を意味するpolyと「薬局」や「調剤」を意味するpharmacyを合わせた言葉です。そのまま理解すると、「たくさんの薬」ということになります。一人の人がたくさんの薬を飲んでいること。そして、それによって何か問題が起きている状態をポリファーマシーや多剤併用問題と言います。

皆さんが薬を飲むのはどのような時でしょうか。若くて健康な場合は、薬を使う場面は限られているかもしれませんが、花粉症や風邪を引いた時、頭痛や歯が痛い時などに薬を飲むこともあるかと思います。また、高血圧や糖尿病などの病気があれば、その治療のために定期的に薬を飲んでいるという方もいらっしゃるかと思います。このように、日常生活のさまざまな場面で薬は登場します。自分が効いて欲しいと思うことだけに、薬が効いてくれると非常にいいのですが、実際にはそうはいきません。薬を飲むことで、思わぬ有害事象・・・例えば、薬を飲んだことで薬のアレルギーが出て、体に蕁麻疹や発疹が出てしまう。胃が痛くなったり、気持ちが悪くなったりしてしまう。症状緩和のために飲んだのに、逆に症状が悪くなってしまう。というようなこと・・・が生じてしまうこともあります。薬が原因の副作用、原因とは限らない有害事象、ワクチンの時に主に使われる副反応と、いくつか用語の使い分けがありますが、話が複雑になってしまうので、今回は薬によって何か悪いことが生じたことを「薬物有害事象」と統一して話を進めていきます。どんな薬にも、薬物有害事象を引き起こす可能性があります。皆さんの中にも実際に経験した人がいるかもしれません。そして、飲む薬の数が増えれば増える程、そのような薬物有害事象が起こるリスクは高まります。

いくつもの薬を飲むということが、若い方の場合はあまり現実的ではないかもしれないので、その場合は皆さんのご両親やお爺さんやお婆さんを想像してみて下さい。朝昼夕寝る前、どこかで薬を飲んでいませんか。

日本人の平均寿命は世界でもトップクラスですが、長生きになった結果、生きているうちにさまざまな病気にかかるようになりました。また、以前は治らなかった病気でも治療技術の進歩によって、治療して、生きていくことが可能になりました。そうすると、いくつもの病気を抱えたまま生きていく、ということが現代では当然となっています。多くの病気は、薬によって治療が行われます。そうすると、否が応でも、薬が増えていってしまいます。先ほども話しましたが、薬は病気だけに効いてくれる訳ではありません。病気が増えると薬が増え、どうしても薬による薬物有害事象が増えてしまいます。

また、高齢になると、内臓の機能が低下し、飲んだ薬の吸収や代謝が落ちることで、普通の成人と同じ薬の量だと効き過ぎてしまったり、有害事象が起こりやすくなってしまったりします。ですので、出来る限り薬は最小限に留めて、必要のないものはダラダラと継続しないという心掛けが重要になります。ただ、心筋梗塞などの治療後は、ほぼ永続的に薬を飲まなければならないものもありますので、最小限と言っても病気の重症度や種類によっては薬が増えてしまうことも当然あります。一方で、胃薬やめまいの薬などは、症状があったときに飲み始めますが、症状が治った場合には一旦中止することも可能です。このような薬は意識してやめないと、薬を飲んでいるから効いているのか、実際には薬はなくても大丈夫なのに飲み続けているのか、わからなくなってしまいます。そして、しばらく飲み続けていると飲んでいることへの安心感が出て来てしまい、薬に依存的になり、ますます薬がやめられなくなってしまいます。

また、年をとると、耳が遠くなったり、咄嗟の反応が鈍くなったり、記憶力が低下したりと、さまざまな変化が起こります。しかし、このような症状は薬によって引き起こされることもあるのです。そして、たくさんの薬を飲んでいると、その症状が薬によるものか、年とったことによる生理的なものか、その見極めが非常に難しくなってしまいます。認知症のような症状が、実は睡眠剤やめまいを治す薬で起こされていたり、足のむくみが実は高血圧の薬で起こされていたり、味覚障害が実はアレルギーの薬で起こされていたり・・・これらは実際に私の患者さんで起こったことです。決して珍しいことではなく、実際には多くの患者さんに起こっている可能性があります。しかし、これらは薬で症状が引き起こされていると気付かれなければ治りません。薬によるものかも、と気付かれて、薬を中止して、はじめて改善するのです。逆に、認知症のような症状や、足のむくみや、味覚障害に対して、新たに薬が処方されてしまうと、どんどん原因が分からなくなってしまいます。症状が出る、薬が追加される、さらに症状が出る、薬が追加される・・・となると、症状改善どころか増えた薬による薬物有害事象のリスクもどんどん増えてしまいます。

このように、薬はいい面だけではありません。今日は薬物有害事象が増えることを中心にお話ししましたが、その他にも薬が多いと薬の飲み忘れが増えてしまったり、薬に掛かる費用が増えてしまったり、と薬を飲むこと、薬が増えることには、デメリットも生じるということを是非頭に入れておいて下さい。

病気に対する治療薬が開発され、その恩恵を私たちは受けていますが、薬を飲むということはリスクも伴います。そして、病気になったら医者にお任せ。ではなく、治療方法や生活習慣改善について、意識を向けるようにして下さい。

 

産業医

池田 迅